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60代前半女性主婦の死亡事故に関して内縁の夫に対して支払われるべき慰謝料を差し引いた賠償を求めた被告主張を認めず遺族に約5000万円の賠償を認めた和解事例

横浜地方裁判所管内

■死亡事案(判例031)
■確定年:2018年 和解
■横浜地方裁判所管内

被害者の状況

①62歳・女性(兼業主婦)
死亡時62歳 女性・兼業主婦
信号機のない交差点内において、優先側の道路を直進進行した被害原付に対して、その左方の一時停止側道路から進入してきた加害車両が衝突した出合頭事故
死亡

認められた主な損害費目

死亡逸失利益(就労分)

約2,040万円

死亡逸失利益(年金分)

約670万円

死亡慰謝料(遺族+本人)

約2,500万円

葬儀費用

約150万円

その他

約60万円

損害総額

5,420万円

過失相殺額(20%)

-約1,080万円

調整金(※1)

約720万円

 最終金額

5,000万円

※1事故日からの遅延損害金や、弁護士費用を含める
本件では、事故日から4年もの年月が経過していたことが相当程度加味された

詳細

被告主張

①主婦労働の逸失利益について、年額248万6800円(60~64歳女性全平均賃金の8割)を超えないと主張。

②また、主婦労働の逸失利益の対象は、原告となっている子供2名ではなく、内縁の夫こそが扶養利益を喪失として損害賠償請求すべきもので、内縁の夫に認められた損害の残額部分までしか相続人らへの賠償は認められないと主張。

③さらに、年金逸失利益については、全期間について生活費控除率(後記コメントをご参照ください)は70%と主張。多岐に渡って争った。

④弁護士費用について、通常損害額の1割を相当とするが、本件では死亡自賠責保険金を請求すれば、訴訟によらずとも獲得できるため、弁護士費用の算定元本より自賠責保険金相当額を控除すべきと主張。

⑤一時停止義務について、一旦停止線で停止した以上は、義務は履行している等と主張して、35%もの過失相殺を主張。

裁判所の判断

①そもそも本件では、被害者は兼業主婦として年額230万円程度もの実収入を得ていた上に内縁の夫のための家事等を行っていたのであり、被告主張の年額240万円程度の収入額算定は主婦の基礎収入額として不当に廉価であることを、詳細な生前の生活状況を示すことで反論した。
その結果、裁判所では、基礎収入額は、パート収入と家事就労を合わせて、310万8500円(60~64歳女性全平均賃金)と認定した。

②被告主張の理論構成自体の誤りを指摘するとともに、内縁の夫から賠償参加しない旨の意思表示があったことを立証した。その結果、和解案では、被告の当該主張は斥けられ、原告らが全額賠償を受領する内容での提案が行われた。

③原告の年齢からは、少なくとも75歳までは年額230万円程度の実収入が得られるとおう事情がある以上、年金額を生活費として消費してしまう割合は、年金しか収入がない場合に比べれば低いという点を詳細に立証した結果、請求通り、75歳までの年金逸失利益の生活費控除率は、30%、75歳以降は70%とする和解案が提示された。

④自賠責保険金を訴訟に先行して請求するかどうかは、完全に権利者である被害者や、相続人の自由であり、訴訟において過失や損害額を被告自身が現に争っている以上、特段受領できたはずなどという抽象的可能性を以て、弁護士費用算定において、自賠責保険金額相当額を控除するのは、全く不合理であることを主張した。その結果、和解案でも特段、調整金について、被告の主張が反映されることはなく、700万円以上の調整金が認められた。

⑤一時停止義務を課している本質は、単純に停止さえすればよいというものではなく、安全確認義務の履行をより強く求めるというものであるところ、一時停止線位置からは、全く左右が見とおせないにも関わらず、交差点進入時に再度停止をしないことは、一応停止という形式的行為は取ったというだけでしかなく、一時停止義務違反があると見るべきだという当方の主張が全面的に認められ、過失相殺率は20%に留まった。

当事務所のコメント

①相手方は、年齢という点を強く強調して、極めて廉価な年収額主張を行いましたが、実際にどのような家事を行い、それにより家族がどのような恩恵を受け、そして被害者が亡くなられたことでどのような苦労を負われているのかをしっかりと主張したことで、適正な評価を受けることが出来ました。

②生活費控除率とは、死亡したことで支出しなくなった死亡した本人の生活費部分は、支出を免れているという観点から、賠償額から控除するという考えによるものです。
年金収入の場合は、年金制度の趣旨からその大部分は生活費として消費されることを前提にしているため、賠償実務上は、かなり高い生活費控除率(7,8割)を認めている例が多くあるところです。
しかし、本件の被害者は、年額230万円もの年収を得ており、少なくとも75歳までは就労を継続できると考えられますので、こうした事情を詳細に主張したことで、75歳まで仕事が出来る期間、年金収入を生活費に充ててしまう割合は、30%という非常に画期的な判断を得ることができました。

③一時停止義務違反については、上記のとおり、加害者側からは一旦停止したのだから、義務は果たしたと主張されることが多いところです。
しかし、具体的な事故現場では、見とおしなどによって一時停止線での形式的な停止が何らも事故防止に役立たないというケースも少なくなく、そのような場合、刑事でも民事でも再度の一時停止をするべき義務を果たしていないとの認定する場合があります。

本件においても、詳細に現場状況を主張し、一時停止規制の意義について論じた結果、当方主張に対して裁判所和解案にて全面的な支持を得ることができました。
交通事故の専門事務所として、事故態様については、ケースの類型図だけに拘泥せず、よりその現場や事故発生状況を分析していくことで、適正な責任割合が認定されるように、常に尽力しております。