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保険会社の「詐病」の主張を徹底的に排斥した事例

東京高等裁判所管轄内

■高次脳機能障害(判例205)
■後遺障害等級:2級 確定年:2020年 判決
■東京高等裁判所管轄内

被害者の状況

①23歳・女性(会社員)
女性 会社員(事故時23歳,症状固定時25歳)
信号に従い横断歩道上を歩行していた被害者に信号無視の自動車が衝突
高次脳2級,複視10級

認められた主な損害費目

治療費

約640万円

傷害慰謝料

約340万円

休業損害

約120万円

逸失利益

約6,180万円

将来介護料

約6,380万円

後遺障害慰謝料

2,800万円

その他

約1,150万円

損害額

約1億7,010万円

任意保険金控除

-約1,000万円

自賠責保険金控除

-2,590万円

遅延損害金

約5,900万円

弁護士費用

約1470万円

近親者慰謝料

200万円

最終金額

約2億1,000万円

*1)自賠責保険金2,590万円を加えて,総額約2億3,590万円を獲得した。

詳細

加害者の主張

① 脳の負傷部位及び程度(画像所見)からすれば,身体麻痺が残るとは考えにくく,被害者の身体麻痺は本件事故と無関係である。

② 認知機能を測る検査(MMSE,CAT,リバーミード行動検査等)においても被害者の値は全て正常域であり,被害者が主張する高次脳機能障害の実態(2級)は,これら検査結果と矛盾する。

③ 映像(保険会社が勝手に被害者の日常を撮影したもの)によれば,被害者は屋外を普通に歩行できており,「屋外歩行不能」等の診断書の記載は,被害者が保険金を得る目的で症状を実際よりも重く見せていたことによるものである。

④ 以上によれば,被害者の高次脳機能障害は7級相当である。

裁判所の判断

① 被害者の脳にはびまん性軸索損傷の所見が認められるところ,神経麻痺はびまん性軸索損傷の典型的症状であるから,本件事故によって身体麻痺が残存したものと認められる。

② 認知機能の低下は高次脳機能障害の一側面に過ぎず,被害者にはそれら検査だけでは測ることができない人格変化等の症状も認められているから,検査結果の値だけをもって高次脳機能障害を評価することは適切ではない。

③ 高次脳機能障害の症状は,日によって波が出るものであるから,映像(保険会社が勝手に被害者の日常を撮影したもの)だけをもって常に同様の歩行が可能であるとは認められない。

④ 以上を前提に,被害者には,著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって,一人で外出することができず,日常生活の範囲は自宅内に限定され,排泄,食事には家族からの声掛け・看視を欠かすことができないから,自賠責保険認定のとおり,高次脳機能障害2級に該当する。

⑤ 逸失利益,慰謝料,将来介護料(日額1万円)等,全ての損害費目につき高次脳機能障害2級を前提に認定する。

【当事務所のコメント/ポイント】

本件は,保険会社側において,被害者がより多くの賠償金を得るために実態よりも障害を重く見せているのではないかという疑いを持たれていた。しかし,本件被害者が症状を誇張したという事実は一切なく,保険会社側の高次脳機能障害に対する理解が不足していたため,カルテの記載を曲解し,間違った認識を持っていたに過ぎない。

例えば,病院のカルテには,「自賠責保険で無事に2級と決まり,屋外を歩行しているのを人に見られても良いようになって,気持ちがすっきりした」などという被害者の発言が記載されていたため,「被害者の症状は誇張=詐病である」という極めて理不尽な主張に繋がった(実際には,下記で触れる「作話」の一種であり,被害者自身の言葉を信用してはいけない)。また,保険会社は,複数の医師意見書を提出するとともに,調査会社に依頼して被害者の日常を勝手にビデオ撮影して証拠提出するなど,手段を問わず徹底的に争う姿勢を示した。

このような謂われのない非難に対し,当方でも複数の医師意見書を提出するとともに,被害者の症状を見てきた理学療法士,移動支援のヘルパー,就労支援施設のスタッフ,デイサービスの担当者とほとんど全ての介護関係者から聴き取り調査を行い,その方たちの陳述書を提出することによって,被害者の高次脳機能障害の実態を証明した。その際,病院のカルテやリハビリの記録を一覧表形式で裁判所にわかりやすく提供し,被害者に関わる専門職の誰もが詐病を疑っていないということを指摘した(仮に被害者が殊更に障害を重く見せていたとすれば,専門職の誰もそのことに気がつかないとは考えにくい。)。

さらには,「高次脳機能障害2級」がどのような障害像なのかを正確に説明し,加害者側の立証(ビデオ映像における歩行場面)を前提にしても2級という障害像と矛盾しないことを裁判所に理解させた点も重要であった。本件被害者の場合,歩けるには歩けるのだが,歩行に耐久性がなく,歩行距離が長くなるに従って高次脳機能障害特有の疲れやすさが顕在化して次第にふらつきが大きくなっていくという特徴があったため,家を出た直後のビデオ映像だけをもって常に同程度の歩行ができるわけではないことが認められた。

このように,高次脳機能障害の正しい知見を明らかにし,保険会社側の主張を一つ一つ潰すことに成功した結果,全面勝訴ともいうべき高額判決の獲得に繋がった。

高次脳機能障害には,以下のような特有の問題がある。

・ 本人の病識が欠如することを特徴とし,また,上記本件被害者の発言のような「作話」という症状が認められることもあるから,作話の内容や「大丈夫」等の患者本人の申告に基づき症状を判断してはならない

・ 日常生活や社会生活の中で症状が顕在化するから,感情の不安定さなど,特定の症状が退院後に初めて出てくる場合がある

・ 易疲労性のため症状に波があり,また,家族と接する場面と第三者と接する場面とでも症状の出方が異なる場合がある

・ 病院ではあくまで「リハビリ」として可能であった動作も,社会生活の中で「実践」するのは困難な場合がある

高次脳機能障害の事案では,これら高次脳機能障害の特徴を踏まえ,保険会社の不当な主張を一つ一つ排斥していくことが大切である。